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早稲田大学 先進理工学部 応用化学科 無機化学部門 菅原研究室

Research

概要

菅原研究室では,無機合成化学の合成技術と有機化学・有機金属化学・高分子化学の合成技術をシームレスに駆使して,有機-無機ハイブリッド材料やセラミックス材料を作製する手法について主に研究しています.現在の主な研究テーマは以下の通りです.

  • 無機ナノ構造の作製,無機ナノ構造の表面修飾による元素ブロックの作製,さらに元素ブロックを高分子マトリクスに分散させることによる有機-無機ハイブリッドの作製に取り組んでいます.特にナノ構造を有する酸化物表面に対する,リン系カップリング剤(有機ホスホン酸やリン酸エステル)を用いた修飾技術の確立に力点を置いています.
  • 元素ブロックやヘテロ原子を含む分子を連結し,機能ユニットを組み込んだ有機-無機ハイブリッドを作製する手法の開発を行っています.ゾルゲル法などの無機ネットワーク構築プロセスや高分子合成で用いられている重合反応などを活用しています.
  • ヘテロ原子を含む高分子(無機高分子)を前駆体として,セラミックス材料を作製しています.特に,前駆体の作製技術と高圧合成技術を組み合わせることによる,より温和な条件での高圧相の作製手法の探索を目指しています.

最近の研究例

機能性ナノシートの作製とその利用によるエポキシ樹脂の物性向上 エポキシ樹脂では耐熱性や耐水性の向上が望まれています.そこで疎水性のフルオロアルコキシ基を導入した層状ペロブスカイト由来のナノシートとエポキシ樹脂を用いて有機-無機ハイブリッドを作製しました.ナノシートの導入により,耐熱性の向上と水の吸収の抑制を達成しました.(Y. Asai et al., ASC Adv., 2014)

単層構造及び二層構造のナノシートの作製
これまでのナノシートの作製技術では,複数の層から構成されるナノシートを選択的に合成することは困難でした.一方,六ニオブ酸カリウムは,2種類の層間(層間I・層間II)が交互に存在する特異的な構造を有しています.そこで両者の反応性の違いを利用して,高い反応性を示す層間Iだけを選択的に修飾することと層間Iと層間IIの両方を修飾することを,フェニルホスホン酸による層表面修飾により達成しました.これらの有機誘導体を剥離することにより,二層構造のナノシートと単層構造のナノシートを作製することに成功しました.(N. Kimura et al., Langmuir, 2014)

水酸基を有する粘土鉱物のリン酸トリエステル(PO(OR)3による表面修飾
これまで紹介してきた有機ホスホン酸による表面修飾では,有機ホスホン酸が有するPOH基の強い酸性によって,無機化合物の構造が壊れることがあります.古くから陶磁器の原料に用いられてきたカオリナイト(Al2Si2O5(OH)4)は,有機ホスホン酸と反応させることによって,構造が壊れることが知られていました.そこで私たちはリン酸トリメチルを用いることにより,カオリナイトの有機リン化合物による表面修飾に初めて成功しました.

二酸化チタンナノ粒子を導入した高屈折率エポキシ樹脂の開発
高屈折率を有する高分子材料に対するニーズが高まっていますが,汎用高分子材料の屈折率は比較的低い値に限定されています.そこで高い屈折率を有する二酸化チタンを導入することにより高屈折率を有する有機-無機ハイブリッドを作製する試みが行われています.これまでの研究で,二酸化チタンナノ粒子の表面と有機ホスホン酸やリン酸エステルと反応させることにより,二酸化チタンナノ粒子を汎用高分子マトリクス中に凝集させずに分散させることに成功し,透明性と高い屈折率を達成しました.(M. Kobayashi et al., Appl. Organomet. Chem., 2013 / M. Fujita et al., J. Nanomater., 2015)

酸素ドナー量を制御した非水プロセスによるマグネタイトナノ粒子の作製
遷移金属酸化物ナノ粒子は,様々な興味深い物性を示します.中でも,マグネタイト(Fe3O4)ナノ粒子は,ある範囲の粒子径の時に超常磁性とよばれる興味深い磁性を示します.従って,超常磁性マグネタイトの作製では,粒子径の制御が重要な課題です.私達は,酸素を有さないテトラクロロ鉄(III)酸アニオンから出発し,制限された量の酸素ドナー(ピリジン-N-オキシド)を用いた非水プロセスにより,粒子径が制御された超常磁性マグネタイトナノ粒子を作製することに成功しました.

オキシエチレン鎖を有するジホスホン酸を用いたLiイオン伝導体の作製
ポリエチレンオキシドはLiイオンをドープすることによりLiイオン伝導体となりますが,室温では結晶化が進行するため伝導度が大きく低下します.そこで短いオキシエチレン鎖を有するジホスホン酸と四塩化チタンから有機-無機ハイブリッドを作製し,さらにLiイオンをドープしました.得られた有機-無機ハイブリッドのイオン伝導度は室温でも10-5 S cm-1 オーダーで,短いオキシエチレン鎖にもかかわらず比較的大きな値を示しました.また,結晶化に対応する大きな伝導度の低下は認められませんでした. (H. Saito et al., Chem. Lett., 2013)

非晶質物質を前駆体とした立方晶窒化ケイ素の作製
立方晶窒化ケイ素は近年発見されたハードマテリアルであり,一般にアルファ型あるいはベータ型窒化ケイ素を高温高圧で処理することにより合成されます.そこでケイ素-窒素骨格を有する無機高分子であるポリシラザンを比較的低温で熱分解し,得られた熱分解生成物を高温高圧で処理することにより立方晶窒化ケイ素を合成しました.熱分解温度を変化させてアルファ型窒化ケイ素の結晶化を制御したところ,非晶質熱分解生成物を前駆体として用いる方が立方晶窒化ケイ素の作製には有利であることが明らかとなりました.(Y. Yamamoto et al., J. Ceram. Soc. Jpn., 2013)